愛の物語-39-

-39-
 撮影会は途中で休憩がはいります。八畳の間はカメラマンが5人です。客はカメラ店ライトの常連さんの男性で、織物会社の重役や商店主、それに開業医もいます。あちこちでモデル撮影会が催されますが、ライトが主催するモデル撮影会は、少人数制です。ヌード撮影会、女子の裸体を写真に撮る、カメラを持った男たちが欲望を満たします。
「さあ、さあ、宴席の前に、京子ちゃんがつけていた下着の競り市だ、品物は五品だよ」
テーブルに並べられているのは、撮影時に京子が身につけていた衣類です。衣類といっても下着類で、透けた桃色のネグリジェ、白と黒のシュミーズがそれぞれ一点づつ、それに京子が穿いたショーツが二点です。
「京子ちゃんの初セリだよ、写真はライトがつくるから、箱入りだよ」
5人の客は、名刺大の紙に品物番号と競り落とす金額、それに客の名前が記入され、回収され、競り落とした男が決まります。京子は席にはいなくて、立ち会うのは由美です。競り落とした客は、品物を受け取り、代金は洋装店ユミへ、後日の支払です。
「可愛いね、初々しい、京子は、高校生だってさ」
「すえひろとユミでバイトしてるから、見に来ていただいて、いいですよ」
「そうだね、玩具、買いに行くかなぁ」
「まあまあ、旦那さん、奥様を、お喜ばしに、ね」
「いやいや、そればかりじゃない、妾に、使ってやらにゃあ」
競り終わり、宴席になるところで、料理が運ばれてきます。割烹店の仕出しで、酒は日本酒、コンパニオンが二人、派遣されてきます。撮られた写真、そのフィルムは、ライトが受け取り、現像処理し、密着にしてカメラマンに渡されます。陰部が写った駒があるから、それの処理は、後日、ライトの木村が請け負い、撮影者と相談の上、引き伸ばして仕上げます。
「京子ちゃんは、ユミのお店に出ているのよ、九時まで、来るのは、店が終わってからよ」
まだ七時半過ぎです。撮影会の開始が午後4時で終わったのが午後6時です。少しの休憩があり、下着の競りが午後7時に終わって、そこからです、酒の宴が始まります。
 京子は、店に戻って、店番です。平日の夜が始まったばかりの時間で、お客さんは少ないです。明るい店に、明るいマネキンに下着が着せられていて、まだ若い京子には、それらが既婚者のおばさまが纏われる下着だと思えるのです。でも、よくよく考えてみて、普通に身につける下着というには、凝ってあるんです。京子がつけている下着といえば、木綿を素材にした質素なモノですが、レースが使われていたり、凝ってあるのです。もちろん高価なモノばかりです。恥ずかしいのは、ガラスの陳列棚に入っている品物です。男性のモノをリアルに再現させた代物で、サイズ違い、形状違い、何種類もあるのです。それに股の部分がひらくショーツやパンティがあります。眼鏡を大きくした形状の胸ブラジャーがあり、股までが紐だけのパンティもあるのです。京子は、おかしくなってきて、変な気持ちになってきます。
<ヌード撮影会ってゆうんだ、わたし、モデルしちゃった、恥ずかしかった>
京子は、男性の前で裸になったことで、大人になったような気がしているのです。処女だと紹介されたけど、京子は直人という男性と性交したことがあるから、処女ではありません。京子は、店番しながら、奇妙に、クスクス笑えてきて、処女でいこうと、思うのでした。

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愛の物語-38-

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 撮影会は午後4時から6時までの2時間で、終わった後には宴席が設けられます。宴席には京子は顔見世しなくてもよくて、別の女子が男たちのお相手をする、という段取りで夜にかけて、催されます。撮影会から宴席までの会費は一万円で、女工の一か月分の給金以上の金額です。それに参加する男のカメラマンたちは、それなりの金儲けができる立場だから、京子が身につけた下着類を競りにかけて買い求め、満足するのです。京子は処女をうたい文句にしているから、からだに触れることは許されていません。とはいわれながらも、道具を使われて羞恥する姿を見せる京子ではあるのですが。
「いいねぇ、京子ちゃん、お洋服ポーズから、下着ポーズだ、いいねぇ」
シュミーズとショーツをつけている京子です。ブラジャーはしていません。ぷっくら、ふくらむ、未熟な乳房が、透けて見えます。
「うんうん、可愛いな、そのシュミーズ、おっぱいは、少し透けて、だね」
「下穿きは、そのうち、脱ぐんだね、待ってるよ、いいねぇ」
「こっち向いて、笑顔だよ、もっと、にっこりしなくちゃ」
カシャ、カシャ、カシャカシャ、カメラマンは5人、中年を越えた男達、最高齢は還暦を迎える織物問屋の社長です。カメラ店ライトの常連で高額な舶来カメラを買っていて、撮影会に参加して、後の処理はライト店主の木村が引き受けて、男の目を楽しませるアルバムを制作してくれます。
「ほうら、椅子に座って、足を、ひろげて、そうだよ、そうそう」
「もうちょっと、その、シュミーズを脱いで、そうそう、裸になるのよ、京子ちゃん」
八畳の間、庭からの自然光だけでは暗いから、電球を縦に並べたライトボックスが左右から、モデルの京子へ当てられます。京子は、全裸にされてしまいます。椅子に座った京子へ、透けた黄色のネグリジェを纏った由美が、ポーズをつけに入ります。撮影には、由美が写らないようにとのことですが、それは名目だけのことです。
「可愛いな、高校生なんだってねぇ、京子ちゃん、処女だってねぇ」
京子は、恥ずかしさを堪えて顔をあからめ、由美の顔を見て、閉じた太腿を膝からひろげていきます。
「おおおお、いいねぇ、いいよぉ、京子ちゃん、おっぱい、すくいあげて、顔をこっちへ」
全裸の京子は、言われるままに、ポーズをとります。背凭れの椅子に座ったまま、右腕を乳房の裾において、手の指でぷっくら左の乳房をすくい上げるのです。男たちの目線は、太腿を八の字に開いた中心に注がれます。陰毛があらわれています。股の縦割れの唇があらわれています。蕾を開くところまでにはなりませんが、撮影の後半には、由美が絡んで、露出させてしまうのです。客として来ている男たちは、その流れを知っているから、シロシロショーになるところまで、身体と心をウズウズとさせながら、過ごすのです。

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愛の物語-37-

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 モデルというのは、洋装品ユミが扱う下着をつけて写真撮影のモデルになる、という仕事です。下着の上には雑貨と化粧品のすえひろが扱う洋服を着て写真撮影のモデルになるのです。写真の撮影会は、美女撮影会と称し、アマチュアのカメラマンが対象です。
「京子ちゃん、可愛いから、お客さん、喜ぶと思うよ、可愛いから、ねぇ」
撮影会は、洋装店ユミと雑貨と化粧品店すえひろ、それに表通りのカメラ店ライトの共同主催です。店舗の奥裏の、前に庭があり廊下がある八畳と六畳の部屋を使っての撮影です。カメラ店ライトの店主大村がアドバイス役を努め、撮られたフィルムはライトで現像処理をするというのです。撮影会の定員は五名。撮影に参加するカメラマンは、西陣界隈の旦那衆たちです。
「そうなの、日曜日はダメなのね、いいわよ、平日の午後、三時間くらいね」
京子は、夜間高校へ通うことになっているし、日曜日は誠二と過ごしたいから、洋装店ユミと雑貨と化粧品の店すえひろでのアルバイト掛け持ちの合間を見計らって、モデルをすることになります。進行係は年長の君子、京子のお相手は由美、モデルが19歳の京子です。もとから肌の白い少し肉付きのいい身体だから、君子と由美のコーディネートで、まるで洋人形のような可愛さを醸す女子になります。
「いいのよ、わたしもモデルしてあげるから、コーチしてあげるから、安心してたらいいのよ」
どちらかといえば男っぽい由美が、一緒に撮影に入る場面もあるから、安心していたらいいのよ、といいます。撮影会はストリップショーに似た進行でおこなわれていきます。身に纏う衣類は、すえひろで扱う洋服、ユミで扱う下着、夜の下着、男の目を喜ばせる下着、大人の玩具も小道具として使われます。撮影会が終わったあとには、お茶の時間で、撮影に使われた下着や道具が、即売されるのです。
「暖かくなってきたから、薄着でも大丈夫よね」
春の気配が漂いだした千本の繁華街、千本京極は狭い道の両側にお店が並んでいます。飲み屋があり、映画館があり、突き当りも映画館、その隣にはストリップ劇場もあります。夜にはにぎわう界隈ですが、案外、平日の昼間は、人が少ないのです。
「京子ちゃん、いいわね、おじさんばかり、だけど、恥ずかしがると、喜ぶよ」
「はい、わかりました、わたし、がんばってみます、わたし」
ポーズは、大村が指示しますが、カメラマンが微妙に注文をつけてくるから、それに従えばいいというのです。恥ずかしいポーズを求められたら、羞恥を振るまって、恥ずかしそうに応じてあげなさい、とも教えられます。映画の女優さんになれるかも知れないと、京子は思います。

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愛の物語-36-

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 洋装店ユミのドアを押すと一坪の控室になっていて、通路がってその奥は、中庭になっていて庭に面した廊下があって和室の部屋が二つあります。雑貨と化粧品の店すえひろの裏から、この洋装店ユミの部屋へは廊下でつながり、風呂と厠は共同です。洋装店ユミを閉店して京子が控室に入ると、店主の由美がいて、食事会するから一緒においで、と誘われたのです。すえひろの君子が一緒で、お皿に料理が盛られていて、ワインが用意されていて、食事会、洋装店ユミの閉店を待っていたのです。
「京子ちゃん、ここなら、酔って、這ってでも、お部屋に戻れるでしょ」
京子は、繁華街の裏の木造アパートの一室で寝泊まりをしているのですが、君子もそのアパートの一室にいるのです。由美は、千本通りの西側路地をはいったところのアパート暮らしです。
「とんかつよ、珍しいでしょ、ほら、分厚い豚肉よ、とんかつよ」
お皿に盛られたメインの料理は、とんかつ、おでん、それに卵のサンドイッチ、アルコールはビールと赤ワインです。二つある部屋の六畳間の方を使っています。隣の部屋は八畳間で、襖で仕切ってあるから、襖をあけると一室になります。
「かんぱいしましょ、京子ちゃんが来てくれて、助かるわ、ああ、かんぱぃい」
君子が由美より三つ上の三十歳、なので由美は二十七歳、京子は十九歳です。
「わたしたち、雇われなのよ、持ち主は黒田さん、黒田興行の社長よ」
「黒田さんって、黒田興行って、あのおじさん?」
「今日、京子ちゃんの顔を見るって、お店に来たのよ、そのおじさんよ」
小太りの中年おじさん。いやらしい道具をニタニタしながら買った男性。
「そうなの、うちらのお店と、料理旅館と、そう、映画館の地主さん、お金持ちなのよ」
京子は、それがどういうことなのかは、理解できないけれど、君子さんと由美さんの雇い主だということがわかりました。
「ということは、わたしの親会社の、社長さん?」
「そうねぇ、社長さんといえば黒田興行、株式会社ってかいてあるから、社長やわ」
とんかつはしゃぶしゃぶのウスターソースをつけて食べます。京子は、二センチ幅に切られたとんかつの切り目を皿にとり、ソースをかけてたべます。
「さあ、京子ちゃん、たくさん食べよし、可愛いわね、その食べ方」
「いやですよぉ、由美さま、そんなにかわいくなんてないですよぉ」
「ううん、京子ちゃん、可愛いわよ、可愛くなった、といえばいいかなぁ」
年上の女性二人に褒められて、嬉しい気持ちになってきたのは、内緒で飲むワインのせいかも、しれません。
「ねぇえ、京子ちゃん、モデルさんにならない?、わたしたちのモデルさん」
「ええっ、モデルさんって、なんのモデルさんなの?」
「そうね、写真のモデル、それに映画のエキストラ、京子ちゃん、売れっ子になるかもよ」
とんかつを五切れ、おでんをお茶碗に山盛り、それに卵サンドも食べた京子です。食事会を始めて小一時間、もう時間は夜の十時を過ぎていました。京子は、モデルにならないかと持ち掛けられ、即座に了解との返事はできませんでしたが、断りもしませんでした。

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愛の物語-35-

-35-
 京子は、アルバイトするすえひろの君子店長から、洋装店ユミの店員アルバイトと架け持ってもらえないかと相談されたのです。洋装店ユミはランジェリー、夜の女性が身につける下着、大人の玩具とかムードを醸す洋品を扱う店です。化粧品と雑貨を扱うお店の君子さんと洋装店ユミの店長由美さんとは、親密な友だちです。
「女を美しく、魅力的につくってあげるために、私たちのお店があるのよ」
「そうなんですね、わたし、綺麗になりたいから、アルバイト、します」
「そうなの、来てくれるの、ありがたいわ、すえひろと架け持ちだよ、いいわね」
「はい、わたし、生活のこともありますから、よろしくお願いします」
京子は、洋装店と雑貨店、この二つの店で、相互に時間の都合をつけながら、アルバイトすることになりました。西陣京極の中にある雑貨と化粧品のお店は、女性の表向き、ランジェリーや夜の下着のお店は、性にまつわる精神を隠し持つ、女と男の商品を扱っているから、19歳になったとはいえ、京子には恥ずかしい気持ちになることがあります。洋装店ユミの客は、既婚の女性が多いといえば多いけれど、男性が来店することも多いのです。
「あたらしい子だねぇ、名前は、いや、失礼、訊いちゃだめだよね」
もう夜の九時前、閉店前に来店の中年男性です。京子の顔を見ながら、店の奥横にあるショーケースの前に来て、ガラスケースのなかを眺めているのです。
「そうだなぁ、この、茶色いの、見せてくれない?」
男性性器の形を模造したモノを、男性が指差し、出して、見せてほしいと、京子にいいます。京子は、小太りの中年男性と目線を合わさないようにして、指定された品物を、ケースの天板ガラスの上に置きます。
「いい格好だ、このくびれの深いのが、いいんだよね」
少し小太りの男性は、その品物をしみじみと眺めて、京子の顔を見て、買う、というのです。赤いボール紙の箱に入ったその品物を買う男性は、京子の顔をジロジロと見ています。代金を払うときに、キミいくつ、と聞くのでした。京子は、男性が買っていく品物の使い方は、具体的にはわからないまま、ユミの閉店は午後九時です。京子は、ドアに施錠し、カーテンを引き、店の照明を豆電球にして、店の奥にある控室へ戻ります。店の奥は住居になっていて、勝手口から裏道へ抜けられます。

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愛の物語-34-

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<京子>
 春になってくると、からだがうずうずしてくる京子です。ひとつ年下の誠二がモータースに仕事を求め一人住まいを始めたから、というわけでもありませんが、日曜のたびに、誠二のところへ行くようになりました。京子は、お昼ご飯を誠二と一緒に食べるため、そのお昼ご飯をつくりに行くのです。先日には、京子は、誠二に何も言わないままに迫りました。なにを迫ったかというと、女と男の営みです。でも、誠二は最後のところまでは来てくれませんでした。
<誠二くん、わかってないんかなぁ、わたし、いいと思っているのに・・・・>
京子は、まもなく19歳になります。網野の中学を卒業して、京都へやってきて、泉織物で織子を三年。化粧品と雑貨品を扱うすえひろの君子さんの話に心が開花して、織物会社を辞めたところでした。
「ねぇ、京子ちゃん、好きな男子、いるんでしょ」
「まあ、ね、好きなんかなぁ、わかんないけど」
「いいわねぇ、恋人よね、でも、こども、つくっちゃ、だめよ」
「ええっ?、そんなこと、わたし、しませんから」
京子は、きみこさんの話題に、顔を赤らめながら、誠二の顔を思い浮かべると同時に、以前に関係した直人との光景を、思い起こします。京都へ来て、一年目の秋、工場へ織機を直しに来ていた大阪の労働者、直人に誘われ、五番町にある綺麗なラブホテルへ行ったのでした。
<直人さん、いま、どこに、いるんやろ、どこ?>
京子の体験は、この時が初めてで、その後も体験はありませんでした。誠二と巡りあったといっても、会話するだけで、手を握られたことはありましたが、それ以上のことはありません。
<誠二くんったら、意気地なしよねぇ、わたし、してあげたのに>
京子が男子の性器を見るのは、初めてではありませんでしたが、誠二のそれを握ってあげて、見てしまって、ムラムラしてくる気持ちになったけれど、白濁の液体を手の中に出させて、それで終わってしまったことに、恥ずかしさの気持ちを抱いてしまったのです。その日は、その後、誠二の部屋からでて、一人、自分の部屋へ戻ってきたのでした。

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