愛の物語-8-

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 中学を卒業して京都の泉織物に就職してきた山村茂子は、織機の織子として三年近くの経験を積んでいて、職場では気が利く女子です。見かけもよく小柄ながら整った顔立ちです。それに性格も柔らかくて人に親切な女子、高校へ行っておれば三年生の十八歳です。泉織物の跡取り息子で40歳になる村田啓介に見染られたのが十七歳。かれこれ一年近くが経って、月に何度かの関係が続いているところです。卯水旅館は、啓介が茂子と関係を持つ場所です。
「あん、ああん、専務さん、ああん」
座敷机にお尻を置いた茂子は、二つの膝にそれぞれに啓介の手がおかれていて、左右に開かれてしまうのです。
「ほうら、茂子、あし、ひらいて、ほうら」
まだ乳白色毛糸のワンピースを着たまま、お尻を包んだままに座敷机に座っている茂子。足裏はひろげて畳に置いていますが、膝は閉じたままでした。その膝の前にいる啓介が、ひろげてきて、茂子のそこを見るのです。ストッキングを穿いた茂子の腰まわりを眺めて、啓介の男心がふつふつと湧き立ってきます。
「ふんふん、ストッキング、脱いでしまおう、ね」
「ああん、専務さん、脱がして、脱がしてくださいな」
茂子は、手を座敷机の天板に置いたまま、お尻を浮かせます。啓介は、茂子に纏うスカートをめくりあげ、ストッキングを腰から抜いて太腿の根元まで下ろしてやります。そこで茂子は、持ち上げていたお尻を座敷机の天板に降ろします。スカートはめくり上げられたままです。
「いいね、茂子、すべすべ、いい感触、白いねぇ、柔らかいねぇ、茂子」
「ああん、専務さん、ああん」
啓介は、乳白色毛糸のワンピースを身につけた茂子に、スカート部を腰まで持ち上げさせ、手でずり落ちないように支えさせたのです。下腹部から股にかけては木綿のショーツを穿いた茂子です。啓介は、茂子のショーツを穿いた腰まわりを眺め、舌なめずりしてしまいます。茂子は、まだ、恥ずかしそうに、うつむき、左手でスカートを抱え、右手は天板に置いています。
「さあ、いいかい、あしを、つくえにおくんだよ」
啓介の前の座敷机に座って、足をひろげた茂子です。畳につけた足裏をもちあげ、机の上に置かせるのです。
「こうですか、専務さん、こんなの、ね、ああん」
素足の茂子です。腰まわりをショーツで覆った茂子は、足をひろげ、座敷机にMの格好になって乗るのです。天井からの電気と畳の上においた電球スタンドで、茂子のからだを照射させる啓介。乳白色の毛糸ワンピースをお臍のうえまでめくり上げている茂子。少し酔いがまわっているのか、恥ずかしいのか、茂子の頬が赤らんでいます。
「いいねぇ、茂子、白いんだねぇ、おおっ」
茂子の前であぐら座りする啓介の声が、うわずってきます。茂子の半裸を、白い太腿を、その内側を目の前にして、啓介の情欲がわいてくるのです。

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愛の物語-7-

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 菊の間、四畳半には、二人分のお膳が並ぶ広さの四角い座敷机があり、紅い座布団が向こうとこっちに置かれています。こっちというのは啓介が座るところで、鏡台がみえます。籐で編んだ屑入れがあります。茂子が顔を鏡に映すとき、後ろから、啓介が見るのです。女将が部屋から出ていくのを待ち構えていたかのように啓介が、正座している茂子にいいます。
「さあ、茂子、こっちへおいで、座布団もって、ここへ」
「はぁあっ、はいっ、専務さん、お酌ですよね、はい」
茂子が立ち上がり、紅い座布団を持ち、啓介の右横に来ます。茂子の左に啓介が、右には開かれた襖の向こうに敷かれた寝具があります。啓介が茂子をみるとき、その寝具が目に入るのです。狭い空間です。和風の四畳半と三畳の間です。
「うん、注いでおくれ、茂子も飲むんだよ」
徳利を手にした茂子が、左にいる啓介が手にした杯に酒を注ぎます。杯を左手に持ったまま、茂子が持った徳利を自分の右手に持ちます。茂子に杯を持たせ、啓介がお酒を注ぎます。
「茂子、乾杯だ、いいね、また、来たね、かんぱい」
「ああん、専務さん、いやよ、いっぱい、したら、わたし、うれしいんやけど」
「なにゆうんかと思たら、わけわからんことゆうて、さあ、飲め」
茂子は、杯の酒をいっきに口に含んで、飲み干します。啓介は、その茂子を見て、ほくそ笑み、酒を舌で味わうのです。茂子は、乳白色の毛糸で編んだワンピース姿です、啓介の右横に座って、足を崩しています。啓介が視線を落とすと、茂子の膝が前後にずれ、太腿の半分までが露出して、ストッキングに包まれているのに艶めかしさを感じます。
「ああん、専務さん、わたし、わたしが、ぬがして、あげるよ、いいこと」
啓介に、右腕を背中にまわされ抱き寄せられた茂子です。啓介が、顔を頬に近づけて、腰を茂子の腰に当ててきます。茂子は、啓介がむずむず動かすのを知って、その要求を察知します。啓介はズボンを穿いており、ベルトをしているから、それを脱がしてあげるのを介助するのです。啓介はまるで子供のように、茂子が、ベルトを外してくれて、ボタンを外してくれて、スボンを脱いでしまうのです。まだパンツを穿いたままで、上には毛糸のセーターを着たままの啓介の横に座っている茂子です。啓介は、ズボンを脱いで、あぐら座りです。座敷机の上の盆を畳の上へ降ろして、啓介は、茂子を座布団ごと座敷机に臀部を置かせ、座らせるのです。
「ああん、専務さん、ううん、わたし、かわいい?、わたしのこと、好き?」
「ああ、かわいいよ、茂子、好きだよ、茂子、好きだ」
座敷机にお尻を置いて、足裏を畳に置いている茂子。目の前にはあぐら座りの啓介がいるのです。
「ああっ、専務さん、どないしょ、わたし、ああん」
足首をひろげて啓介の腰を跨ぐ茂子ですが、座敷机にお尻を置いて伸ばした太腿から膝までは、ぴったしと閉じたままです。啓介が左右の手の平で、茂子の左右の膝を包むようにしてかぶせます。ストッキングのつるりとした触感に啓介が頬ずりします。茂子は、うつむき、啓介の肩に手を置き、体に力を込め、そうして力を抜きます。

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愛の物語-6-

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<茂子>
 茂子は、専務の村田啓介と食事を共にしています。千本中立売にある小料理屋で、茂子は親子丼にうなぎの肝吸いと小料理一品、その一品は茂子が好物の牛肉のしぐれ煮です。啓介は、親子丼に茂子と同じ吸い物と料理一品、その一品は牛ステーキです。お酒を、18歳の茂子は飲まないからお茶にするけれど、啓介は二合徳利を一本温めてもらって、茂子に注がせるのです。茂子は、啓介から月に一万円ものこずかいをもらっているので、お給料の手取りが一万円だから倍の収入になります。女子寮になっているアパートの家賃と会社で食べる昼夜の賄いは会社持ちです。
「うん、おいしい、わたし、お魚よりお肉が好き、専務さん、どうぞ」
「茂子、可愛いな、お酒、注いでおくれ、白い手してるなぁ」
「そんなことおっしゃらないで、専務さん、さあ、お酒」
「ありがとう、うんうん、食べたら、うみずへいくよ」
卯水というのは、旅館を看板にあげているけれど、男と女が逢引する部屋があります。主に男と女が逢引する旅館だから、一般の泊り客はほとんどいません。
「はい、専務さん、いいことよ、はい、いきましょう」
茂子は、この前に買ってもらったハンドバックを持っていて、啓介が良く似合っているといいます。茂子の外見は、茶色のオバーコートに毛糸で編まれた乳白色のワンピースです。小料理屋から歩いての三分ほどで、仁和寺街道を西に入ったところが卯水旅館です。
「いらっしゃい、お待ちしておりましたよ、おぼっちゃま」
もう高齢の女将が、錦織物の専務を迎えて、挨拶をしてきます。玄関の引き違い戸をガラガラと空けると土間になっていて、履物を脱いで正面の階段から二階へあがるのです。
「菊の間ですよ、あったかくしてあるよって、ごゆっくり」
女将は、啓介が若い茂子を連れてきた最初に、茂子の素性を告げたので、電話ひとつで部屋を用意しておくのです。二階には部屋がいくつかあって、菊の間は階段から右にとった左の部屋で、畳の間、四畳半と三畳です。茂子がここへ来たのは、錦織物の織子として加悦から就職してきて一年が過ぎたころでした。17歳になっていたけれど、何人かの女子と一緒に、食事に誘われ、そのうち一人だけ呼ばれて、食事をするようになりました。妻を亡くした啓介の気持ちは、二回りも若い茂子の美貌に魅せられてしまって、手に入れたかったのでした。卯水旅館へ初めて来たのは初夏のころ、祇園祭で四条の方がにぎわっていたときでした。
「ああん、専務さん、冷たい、冷たいわ」
菊の間に入るなり啓介が、茂子の頬を撫ぜたので、冷たい手を感じたのです。脱いだコートを部屋の隅に置く茂子。乳白色毛糸のワンピースは、まるで春を思わせる色です。膝上丈なので、ストッキングを穿いた膝が啓介には艶めかしく見えます。
「おおきに、はいらしてもらって、よろしいですか」
襖の向こうで女将の声がして、啓介が返事をしたので、襖が開けられます。女将が二合徳利とおちょこを二つ、それに乾きものおつまみを盛った小皿、その盆を手にして、部屋に入ります。女将は、茂子の顔を見て、お楽しみやねぇ、とにこやかな表情をつくっていいます。茂子の顔を見、それから啓介の顔を見て、女将は、ご用意してありますよって、ごゆっくりなさいませ、おぼっちゃま、と笑みを見せていうのでした。おぼっちゃま、とは啓介のことで、女将には先代からの贔屓で、その後継者の息子のことをそう呼ぶのでした。四畳半の奥の三畳間は、襖が開かれているので座敷机のところから、目の前に見えます。新婚さんの紅い布団に白いカバーの上布団、その下は白いシーツのお布団が敷かれています。女将は、なにを思い浮かべているのか、正座して座った茂子の顔から膝元までを見まわしています。

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愛の物語-5-

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 誠二が持っている単車はスーパーカブのスポーツタイプで、二人乗りができるから、京子を誘ったのです。カドヤでご飯を食べ終えて、単車に乗る誠二は革ジャンバー姿です。京子は、まさか単車に乗せてもらってドライブする、などとは夢夢思いもしていなかったから、スカート姿でオバーコートは着ているものの、誠二の後ろからシートを跨ぐのには、腰から前下がひろがってしまうのです。
「きっちり、つかまっててよ、抱きついてもいいよ、京子」
ポコポコとエンジン音がして、ハンドルを握った誠二に、後ろから抱きついて顔を背中につける京子です。単車に乗せてもらうのは初めてです。股をひらいて、膝で誠二のお尻を挟んで、発車の勢いで後ろへ引かれそうになって、夜の街を通り抜けていくのでした。冷たい風は誠二が盾になっているから寒くはないけれど、足元が寒い。紐付きのズック靴と足首までの靴下だけ、スカートは膝まで、コートは前がはだけしまいます。でも、気持ちいい。ぶんぶんぶんぶん、単車の音に京子は、ドキドキの気持ちです。信号待ちで止まったとき、誠二が振り向き、京子に、大丈夫か、と声をかけます。京子は顔を横に出して、大丈夫よ、と答えたときには、信号が青になり、発車です。
「休憩、ちょっと休憩しよう」
単車が止まったのは、嵐山の橋のたもとの公園でした。千本から四条通りを西にまっすぐ、松尾大社から嵐山へとやってきたのでした。京子には、後ろに抱きついていたから、わからなかったけれど、単車から降りると、そこが嵐山の公園だとわかりました。
「こわかった、でも、たのしかった、ああ、寒い」
手袋をしていなかったから、京子の手は冷えていたのです。誠二も手袋はしていなないから、冷たい手です。誠二が、向き合った京子の手を握ってきます。
「ああ、冷たい、誠二くんの手、ああ、わたしの手も冷たいよね」
誠二が、右手の甲を、京子のほっぺに、ぺたんと当ててきたのです。火照った頬の京子に、冷たい誠二の手です。京子は、その冷たさに驚いたけれど、気持ちは悪くありません。
「あったかい、京子さんのほっぺた、あったかい」
「ああ、冷たい、誠二くんの手、冷たいわ」
京子は、頬に当てられた誠二の手に自分の手をかぶせて、冷たいというのでした。よろけるようにして、京子は誠二の腕の中に巻き込まれます。立ったままです。単車の傍です。人の気配はありません。しばらく黙って、抱きあって、キッスするまでもなく、誠二が京子から手を離し、単車を跨ぎます。京子も続いて跨ぎます。きっちりと誠二の背中に胸をくっつけ、後ろから誠二に抱きつく京子です。嵐山から暗い道を走る単車です。山ぎわに沿って広沢の池をこえ、山を越え、仁和寺の前を通って街へと戻ってきて、千本中立売まできて、単車を止めた誠二です。時間は夜の九時を過ぎたところです。京子は、誠二と心が通じた気持ちになり、誠二も同じような気持ちです。
「水曜日は、授業が八時に終わるんよ、白梅町の喫茶店わかるやろ、そこで待ってるわ」
「うん、わかったよ、誠二くん、いけたらいく、水曜日、八時過ぎ」
「ひとりで来てよ、いいよね、約束だよ」
「誠二くんと会うの内緒にしておきます、では、さようなら」
白梅町は嵐山方面へ行く電車の乗り場がある処です。嵐電北野線、帷子の辻駅までで、折り返し運転をしている電車です。四条大宮から嵐山へ直通の電車があり、白梅町から嵐山へいくとき、北野線からは其処、帷子ノ辻で乗り換えです。

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愛の物語-4-

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 喫茶店カドヤの洋食ランチは、けっこうボリューームがあって、女の京子には少し多すぎるのだけど、いつもは残すのも気が引けるから全部平らげてしまいます。でも、誠二の前では、おしとやかに、そろそろと口に運んで食べようと思うのです。初めて、二人で向き合って、洋食ランチを食べているのです。京子は、握りこぶしほどのハンバーグを半分にナイフで切り、フォークに刺して誠二の皿にのせたのです。
「食べて、あげる、わたし、お腹いっぱいなのよ」
すでにハンバーグを食べ終わっていた誠二が、京子の顔を見、少し笑みを浮かべ、嬉しいというように、さっそく京子からもらったハンバーグを食べたのでした。
「京子さん、ひとりで暮らしてるん?」
「うん、ひとりよ、ヒマしてるから、遊びに来ていいよ」
「うん、ありがとう、遊びに行っても、いいの?」
「うん、いいよ、なんにも、ないけど」
「どこに住んでるん、教えてよ」
「そうね、仁和寺街道の千本から東のとこ、渚アパートの二階よ」
「ああ、知ってる、あの階段がある渚アパートなん、何号室?」
「下駄箱あるから、京子って札張ってあるから、来たら、わかるよ」
京子は、まるで誠二に来てほしいとでも言わんばかりに、無防備に自分の住まいの所在地を告げたのでした。誠二は、住み込みで、寿司正の離れの部屋にいるから、京子には、そのことを伝え、訪ねて来ちゃダメだと言うのでした。
 京子が誠二を見ていて、胸が騒ぐのは、どうしてだろうと思うまでもなく、恋心が芽生えたからです。十八歳だから、初恋、というわけではありません。網野の中学に通っていた時には、好きな男子ができて、片思いに終わった経験もあるし、京都に出てきてからも、労働者風のお兄さんから好きになられて、初経験をして、そのお兄さんは忽然と消えてしまって、その後の消息がわからなくなったのでした。それは十六歳の時で、錦織物に就職してきてしばらくしたころ、夏の終わりでした。織物工場へ新しい織機を入れる運び屋の労働者で、工場の隅に設置している傍で、織っていたのが、まだ見習い中の京子でした。その労働者は直人といって大阪に住んでいるといいました。まだ若い男子で風貌もよくって、京子には男らしく見えました。工場で新しい織機の入れ替えで三日ほど京子の傍で作業をしていて、少し親しくなり、名前を教えてもらい、直人という漢字をメモ用紙に書いてもらったのでした。直人は、しばらく京都にいて、京都で仕事をする、と言って嵯峨野に飯場があることを教えてもらったのです。日曜日は休みだから、鳴滝の駅で会おうと言われて、京子は、言われたままに日曜日の夕方に、鳴滝駅のホームへ行くと、小ざっぱりした服装の直人に会うことができたのです。それから二年が経って、誠二と出会うまで、彼いない状態でした。京子には、初めての男、直人のことは、忘れようにも忘れられない記憶があって、その影を追っているところがあります。誠二は、やんちゃそうに見えるけれど、心優しい男子だと京子は感じたのです。直人と共通のところがあるように思えて、その面影を誠二に投影しているのかも知れないのです。

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愛の物語-3-

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 次の土曜日のこと、茂子は用事があるというので、京子がひとり喫茶店カドヤで夜の食事をすることになりました。茂子は、会社の専務さんと会うのですが京子には内緒です。専務は村田啓介といって錦織物社長の息子で四十歳の男です。中学生の男の子供がいるけれど、妻とは死別していて女に困っているところでした。茂子に目をかけ、なにかと面倒をみていて、そのうち茂子は言い寄られ、月に二回か三回、数時間を共に過ごすようになったのでした。錦織物の社屋は千本出水にあって、啓介はいつも千本から仁和寺街道を西にとった処のお定めの旅館へ、茂子を導くのでした。啓介は、十六歳で加悦から京都へ出てきた茂子を、一目見た時から惚れこんでしまったのでした。茂子は、目がくりくりした京人形のような顔だちで、髪の毛もおかっぱ頭だったから、啓介好みといえば好みの顔かたちでした。ほぼ同時に就職してきた京子は、おくてで、子供っぽいところばかりで、丹後の網野で育った田舎っ子でしたが、千本の化粧品店で若いお姉さんから講習してもらい、お化粧の仕方を学び、肌の手入れを教えてもらって、田舎から出てきた当時と比べると、明らかに京の都会っ子になり、身だしなみもしなやかになっている十八歳でした。
 京子が喫茶店カドヤへ入ったのは午後七時を少し過ぎていました。仕事は六時に終わることになっていたけれど、織機の都合で六時に終えられなくて半時間延長になったのでした。誠二はまだカドヤのテーブルにはいなかったが、京子が座って、洋食ランチがテーブルに運ばれてくる直前に、店へ入ってきました。すっかり寒くなった季節で、今日の誠二は茶色の革ジャンバーに紅いマフラーを巻いています。
「京子さんだ、座っていい?」
「うん、いいよ、誠二くん、そう、わたし、ひとりよ」
「そうなんだ、茂子さんは、どうしたの」
「どうしたか、興味ある?」
「いや、べつに、どうでもいいけど、腹減ったぁ」
テーブルを介して、京子の前に座った誠二が、嬉しそうに、京子の顔を眺めて、腹が減ったというのです。茂子がいないなら京子ひとりでいい、と誠二は思う。この前、ここで会った時、茂子が指導権をとっていて、京子はあまりしゃべりませんでした。誠二には、女子のどちらにも興味があって、それは京子でも十分によかったのです。
「おれ、単車に乗ってきたんだ、後で、乗せてやるから、ドライブしようよ」
「うん、ありがとう、乗せてほしい、乗せてもらったこと、ないの、わたし」
「ちっこい単車だけど、走るぜ、けっこう、スピード出るぜ」
「カミナリ族してるん、誠二くん」
「そこまでは、してないよ、学校行くのに乗って行ってるんだ」
誠二の前にも洋食ランチが来て、腹を空かした十七歳は、ホークをハンバーグに突き刺して持ち上げ、顔を前にもってきて、ぱくりと口の中に入れてしまったのです。京子は、誠二のその姿を見て、クスクス笑えてきて、じっと誠二の顔に見とれてしまったのでした。

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